SaaS売上予測方法|成長を見極めるための定量的アプローチと実践モデル
はじめに
SaaSビジネスの収益構造は他業種と異なり、初回の売上よりも「継続課金」と「LTV(顧客生涯価値)」が中心となるため、売上予測には特殊な視点が必要です。従来の単月売上や四半期売上といった静的な見方だけでなく、「契約数の推移」「チャーン率」「ARPU」など複数のKPIを組み合わせて予測を行うのが一般的です。
この記事では、「SaaS 売上予測方法」というキーワードに対して、初学者でも理解できるようにSaaS特有の構造から予測モデル、ツールの使い方、注意点まで体系的に解説していきます。将来の資金繰りや投資判断のために精度の高い予測モデルを構築したい方にとって必見の内容です。
SaaSにおける売上構造の特徴とは?
SaaSの売上は、通常以下の3つに分解できます。
- MRR(Monthly Recurring Revenue):月次の継続売上
- ARR(Annual Recurring Revenue):年次の継続売上
- 追加課金:アップセル・クロスセルによる変動売上
この構造の特徴は「一度契約が成立すれば、LTVが積み上がる」ことですが、その反面、チャーン(解約)が発生すれば売上は減少します。そのため、「獲得」「維持」「拡張」の3視点で予測することが不可欠です。
項目 | 意味 | 売上への影響 |
---|---|---|
新規契約数 | 新たに増えた契約 | 売上が増加 |
解約率(チャーン) | 月次の離脱顧客割合 | 売上が減少 |
ARPU(平均単価) | 1顧客あたりの月間単価 | 収益性を左右 |
SaaS売上予測の基本:MRRベースの積み上げ方式
SaaS売上予測で最も一般的なのは「MRR積み上げモデル」です。これは毎月のMRRを以下の数式で更新し、未来の数か月分を累計していく方式です。
基本式:今月のMRR = 先月のMRR + 新規MRR - チャーンMRR + アップセルMRR
このように、MRRの内訳に着目しながら予測を立てることで、急激な売上減少やチャーン率の悪化を事前に察知できます。SaaS企業におけるKPI管理の基礎として、月次MRRの可視化は必須です。
プラン別・顧客セグメント別に分けて予測する方法
全顧客を一律に扱うのではなく、「価格プラン別」「業種別」「契約期間別」などのセグメントに分けることで、より精緻な売上予測が可能になります。
たとえば、エンタープライズ契約は解約率が低く単価が高い一方で、スモールビジネス向けは導入が早いがチャーン率が高いという特徴があります。これらを別々のモデルとして管理することで、予測のブレ幅を抑えることができます。
セグメント | ARPU | チャーン率 | 月間増加率 |
---|---|---|---|
エンタープライズ | ¥100,000 | 1% | +3% |
中小企業 | ¥15,000 | 5% | +6% |
個人 | ¥3,000 | 10% | +8% |
チャーン率を加味した売上予測モデルの構築
SaaSではチャーン率(解約率)が予測精度に最も大きく影響します。チャーン率のモデル化には次のような2種類があります。
- 固定チャーンモデル:過去の実績から平均値を取る(例:5%固定)
- 動的チャーンモデル:行動データ・サポート履歴・利用率などから算出
より高度な予測を目指すなら、SaaSツール利用ログを分析して「離脱兆候ユーザー」を特定し、AIによる離脱予測を加味したモデル構築も可能です。精度の高いチャーン予測は、LTV向上やサポート施策にも大きく貢献します。
利用すべきツールとスプレッドシート構成の例
売上予測の実務では、GoogleスプレッドシートやExcelを用いて以下のような構成で管理するのが一般的です。
- 月別シート(MRR、チャーン率、新規数、アップセル数)
- セグメント別売上
- 計算式:IF、VLOOKUP、ARRAYFORMULAで自動更新
- グラフ表示:月次推移、成長率、チャーン率推移
さらに、ForecastlyやProfitWellなどのSaaS特化型予測ツールも存在し、データ連携を行えばダッシュボードでリアルタイムに売上見通しが確認できます。
売上予測におけるよくある落とし穴と対策
多くのSaaS企業が陥る誤った予測パターンには以下のようなものがあります。
- チャーン率を過小評価してしまう
- ARPUを実績より楽観的に設定
- オンボーディング期間を短く見積もる
- アップセルや紹介率を過大評価
これらの誤りを防ぐためには、過去の実績に基づいた「現実的なシナリオ」から出発し、楽観/悲観/中立の3パターンで予測を作ることが重要です。
ファイナンス・投資家向け売上予測の作り方
VCや投資家に対して説得力のある予測を提出する場合、単なる数値よりも「成長ロジック」が重視されます。たとえば以下のような構成が効果的です。
- 予測期間:最低12ヶ月〜36ヶ月
- 採用計画と売上の相関
- CAC/LTVモデルの妥当性
- チャネル別リード獲得シナリオ
また、IR資料などに落とし込む際には、グラフ・シナリオ別チャート・KPIスナップショットなどを整理し、エビデンス付きで示すと信頼性が高まります。
まとめ
SaaS売上予測は、単なる「月次の売上計算」ではなく、「継続課金・解約・アップセル・単価・顧客数」といった多次元のKPIを組み合わせて構築する、非常に戦略的な業務です。
予測は「正確性」だけでなく、「仮説検証と学習」が重要な役割を持ちます。つまり、未来を当てるのではなく、「売上成長に必要な行動指標を明らかにする」ためのプロセスなのです。
本記事を参考に、自社のSaaS事業に合った現実的かつ実行可能な売上予測モデルを設計し、持続的な成長を目指してください。