非営利法人向け管理会計システムとは?特有のニーズと導入ポイントを解説
はじめに
非営利法人(NPO法人、一般社団法人、医療法人、学校法人など)にとっても、管理会計の重要性は年々高まっています。収益を目的としない組織であっても、「資金の適正配分」「事業ごとの成果管理」「外部ステークホルダーへの説明責任」など、透明性と戦略性を求められる経営環境にあります。
しかし、非営利法人は営利企業と異なり、助成金や寄付金、指定用途の支出、複数プロジェクト管理といった特有の運営要素を抱えており、汎用の管理会計システムでは対応が難しい場面も少なくありません。
この記事では、非営利法人が管理会計を導入・運用する上で押さえるべきポイントと、実際の活用事例、選定時のチェックポイントを詳しく解説していきます。財務・経理担当者、理事、または支援機関の方にも役立つ実践的な内容となっています。
非営利法人における管理会計の目的と特徴
非営利法人の管理会計は、営利企業と同様に「経営判断のための内部会計」という基本機能を持ちつつも、用途や設計思想にはいくつかの違いがあります。
主な目的は以下の通りです:
- 事業別の収支と成果の可視化
- 予算執行状況のリアルタイム把握
- 助成金・補助金の適正使用管理
- 寄付者・ステークホルダーへの報告資料の作成
- 理事会・監査法人向けの意思決定支援
特に重要なのは、「収支報告」だけでなく、「成果報告」と「説明責任(アカウンタビリティ)」を両立させること。例えば、補助金で実施したプログラムがどれだけのインパクトを生んだかを示すには、数値と実績を組み合わせたマネジメントが求められます。
一般会計と管理会計の連携がカギとなる
非営利法人の多くでは、既に複式簿記による財務会計(一般会計)は導入されています。しかし、これだけでは以下のような課題が残ります:
- プロジェクト単位の収支が把握できない
- 限定寄付・指定寄付などの区分管理が煩雑
- 年次報告はできるが、月次での運営分析が不十分
- 収支バランスを超えた「事業の成果評価」が困難
こうした背景から、財務会計と管理会計の補完関係が重要になります。管理会計では、一般会計の仕訳情報をベースに、任意の切り口(事業別、資金源別、担当者別など)で集計・分析を行います。
たとえば、会計ソフトで仕訳を行ったあとに、管理会計システムで「助成金Aプロジェクトの進捗とコスト構造」や「キャンペーンごとの寄付単価・反応率」といった実務的な視点で情報を再構成できる仕組みが理想です。
非営利法人に求められる特有の管理機能
非営利組織では、営利企業にはない特有の機能要件があります。以下はその代表例です。
機能要件 | 説明 |
---|---|
プロジェクト別会計 | プロジェクト単位で収支・人件費・進捗を集計 |
資金用途別管理 | 限定寄付・指定寄付など、用途制限のある資金の追跡管理 |
多拠点・多部門連携 | 全国展開している団体などで必要な部門別集計 |
助成金対応帳票 | 各助成金ごとの報告フォーマットに対応した帳票出力 |
成果指標との連動 | KPIやインパクト指標との関連付け管理(社会的ROI等) |
特に寄付金の使途を明確にし、活動成果とセットで報告する機能は、ガバナンスや信頼性確保の観点でも極めて重要です。
非営利法人での導入事例:医療法人Mクリニックのケース
ある医療法人では、複数の診療科と関連する補助金事業を展開しており、会計管理が煩雑になっていました。従来はExcelを用いて事業別損益を手作業で作成していたため、以下のような課題を抱えていました:
- 月末の集計に丸2日かかる
- 財務会計データとの整合性が取りにくい
- 補助金管理と実績報告が手間
導入したのはクラウド型の管理会計システム。財務会計データと自動連携し、プロジェクト単位でのダッシュボードを構築。結果、次のような改善が見られました:
- 月次レポート作成が2時間に短縮
- 補助金ごとの収支・成果をリアルタイムで可視化
- 理事会資料の作成がテンプレート化され省力化
このように、非営利法人でも「会計の可視化」がそのまま「業務改善」や「信頼獲得」につながる好例です。
非営利法人向けクラウド管理会計ソリューション一覧
以下に、非営利法人でも活用されている主要な管理会計クラウドツールを一覧で紹介します。
サービス名 | 特徴 | 非営利対応 | 料金 |
---|---|---|---|
FundBoard | NPO特化型、寄付・助成金管理対応 | ◎ | 要問い合わせ |
Loglass | 柔軟な予実管理、非営利法人導入実績あり | ◯ | 月額10万円〜 |
freee + 管理会計アドオン | 簡易なプロジェクト管理に向く | △ | 月額3万円〜 |
board | 部門別P/L管理に強く、病院法人の実績あり | ◯ | 月額5万円〜 |
kintone + カスタム管理 | ノーコードで自由に設計可能 | ◎(設計必要) | 初期構築費用別 |
ポイントは「非営利特有の収支構造」にどこまで対応しているか。FundBoardのように最初から寄付・補助金の用途別管理が前提設計されているツールは、導入もスムーズです。
導入時のチェックポイント:非営利法人ならではの視点
非営利法人が管理会計システムを導入する際には、以下の観点でチェックしておくことが重要です。
- 指定寄付・助成金への対応が可能か?
資金の用途制限に応じた仕訳・集計ができるかを確認。 - 事業別損益がリアルタイムで見えるか?
月次で事業単位の収支が出せるように設計されているか。 - 現場の職員でも使いやすいUIか?
非会計人材でも操作しやすい画面かどうかは定着に直結。 - 外部報告用の帳票が自動出力できるか?
助成金団体や行政機関向けに必要なフォーマットがあるか。 - 初期費用や保守コストが見合っているか?
助成金や会費を原資とする法人では、ランニングコストに敏感。
導入フローと定着化のポイント
非営利法人が管理会計システムを導入する際には、段階的なアプローチが有効です。
- 現状把握(Excel運用の課題洗い出し)
- 試験導入(1つの事業部門でテスト運用)
- 財務会計との連携調整
- 理事・現場への周知とトレーニング
- 運用マニュアルの作成と定期レビュー
また、予実管理やレポート作成のPDCAが回るまでは、外部のIT導入支援や管理会計コンサルの伴走支援を活用するのもおすすめです。
まとめ
非営利法人にとっての管理会計システムは、単なる数字管理にとどまらず、「成果の可視化」と「説明責任の強化」を支える重要なインフラです。クラウド化によって、導入のハードルは大きく下がり、現場の負荷も軽減できるようになりました。
組織の信頼性を高め、持続的な資金調達・運営基盤を築くためにも、管理会計の導入は避けて通れません。今あるリソースで何ができるか、まずは小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
今後は、寄付文化の発展と共に「見える経営」が一層求められる時代です。テクノロジーを味方につけて、組織の透明性と成長性を両立させていきましょう。