システム開発 アジャイル【2026年版】進め方と契約の注意点
はじめに
公式のScrum Guideは、2020年11月版が現行版として使われています。2025年6月には補足資料のScrum Guide Expansion Packが公開されましたが、2020年版を置き換えるものではありません。スクラムは、プロダクトゴールとバックログを軸に、1か月以内のスプリントで計画・開発・レビュー・振り返りを繰り返します。外部委託で進める場合は、変更の扱いと役割分担を契約前に決めておきましょう。
システム開発でアジャイルを検討するとき、「早く作れる手法」とだけ理解すると失敗します。アジャイルは計画をなくす方法ではなく、短い周期で仮説を検証し、利用者の反応を見ながら価値を高める進め方です。要件が変わりやすい新規サービス、業務システムの改善、社内DX、ノーコードでのMVP開発では効果を出しやすい一方、契約、意思決定、レビュー体制が曖昧なままだと混乱します。
アジャイルの出発点は、2001年に発表されたアジャイルソフトウェア開発宣言です。この価値観は2026年のいまも土台として使われていますが、実務ではそれだけでは足りません。スクラムの公式ルールであるScrum Guideは2020年版が現行で、外部委託の契約についてはIPAがアジャイル開発版のモデル契約を公開し、2025年4月にも解説を追記しています。
また、導入判断は開発チームだけで完結しません。経営、現場責任者、利用者、外部ベンダーが同じ目的を見て、優先順位を更新できる状態を作ることが前提です。レビューに誰も判断者が出てこない体制では、どれだけ短いサイクルで作っても方向修正ができず、アジャイルの利点が消えてしまいます。
この記事では、アジャイル開発の基本、ウォーターフォールとの違い、メリットとデメリット、スクラムとカンバン、進め方の手順、失敗パターン、向き不向き、外部委託時の契約・要件定義の注意点を順に整理します。開発会社に相談する前に、どの範囲を固定し、どの範囲を反復改善するかを決める判断材料として使ってください。
アジャイル開発とは?2026年時点の基本

アジャイル開発は、短い期間で動く成果物を作り、利用者や関係者のフィードバックを受けながら改善する開発手法です。システム開発にアジャイルを取り入れるときは、全機能を一度に作るのではなく、価値の高い機能から順に作って確かめます。
土台になっているアジャイルソフトウェア開発宣言は、次の4つの価値を示しています。右側の項目にも価値があると認めたうえで、左側により価値を置くという書き方で、文書や計画を不要とするものではありません。
| より価値を置くもの | 価値は認めつつ優先度を下げるもの |
|---|---|
| 個人と対話 | プロセスやツール |
| 動くソフトウェア | 包括的なドキュメント |
| 顧客との協調 | 契約交渉 |
| 変化への対応 | 計画に従うこと |
具体的な進め方として最も使われているのがスクラムです。公式のScrum Guideは2020年11月版が現行です。2025年6月には共同考案者のJeff Sutherland氏らが補足資料「Scrum Guide Expansion Pack」を公開しましたが、これは2020年版を置き換えるものではありません。拡張パックで示された主な観点は、次の章で整理します。
Scrum Guide Expansion Packで加わった主な観点
Scrum Guide Expansion Packは、公式サイトで「2020年版Scrum Guideのコンパニオン」と位置づけられている補足資料です。2020年版を先に読むことを勧めており、一部では2020年版と異なる考え方も示していますが、公式ガイドを置き換える新しいルールではありません。日本語版も公開されています。
実務で押さえておきたい観点は、次の3つです。
- 完成を2つに分けて考える: 拡張パックでは、完成の定義を「成果物として完成したか(Output Done)」と「利用者や事業に成果が出たか(Outcome Done)」に分けて扱います。リリースできる状態になっても、利用者の行動や業務が変わらなければ目的を果たしたとは言えない、という視点です
- プロジェクトよりプロダクトを育てる: 利用者が使うのはプロジェクトではなくプロダクトだという考え方を前面に出しています。期間を区切って作り終えるのではなく、リリース後もプロダクトを長期で育てる前提で、優先順位と責任者を置きます
- チームでAIの使い方を決めておく: AIを使っても、成果に対する説明責任は人が持つ前提です。どの作業にAIを使い、どこを人が確認するかをチームで決め、小さく試して振り返る進め方が示されています
| 項目 | Scrum Guide 2020年版 | Scrum Guide Expansion Pack |
|---|---|---|
| 位置づけ | スクラムの公式ルールを定めた現行のガイド | 2020年版を補う補足資料で、公式ルールの置き換えではない |
| 主な内容 | 理論、価値基準、スクラムチーム、イベント、作成物 | 成果としての完成、プロダクト思考、AIの扱いなどの解説 |
| 実務での参照のしかた | チームの共通ルールとして最初に読む | 2020年版を読んだうえで、自チームの課題に合う章を読む |
| 外部委託時の扱い | 役割、イベント、完成の定義の確認に使う | 成果の測り方やAI利用の方針を話し合う材料にする |
外部委託では、まず2020年版をもとに役割とイベントを合意し、拡張パックの観点は「何をもって成果とするか」を発注側と開発側で話し合う材料として使うと、契約の範囲を広げすぎずに済みます。
ウォーターフォールとの違いと向いている案件

ウォーターフォールは、要件定義、設計、実装、テスト、リリースを順番に進めます。業務ルールが固まっていて変更が少なく、稟議や監査に耐える文書が必要な案件に向いています。アジャイルは最初から全仕様を固定せず、重要な機能から試して改善します。
| 比較軸 | アジャイル | ウォーターフォール |
|---|---|---|
| 進め方 | 短いスプリントを繰り返す | 要件定義→設計→実装→テストの順 |
| 要件 | 変化を前提に優先順位を更新 | 初期に固める |
| フィードバック | スプリントごとに受ける | 主に完成後に受ける |
| リリース | 段階的にリリースできる | 一括リリースが基本 |
| 向く案件 | 新規サービス、MVP、業務改善 | 要件が安定した基幹系、法令対応 |
| 注意点 | 意思決定者の参加が必要 | 後半の仕様変更は手戻りが大きい |
どちらが優れているかではなく、変更の多さ、利用者確認の頻度、契約形態で選びます。業務システム全体を一括で作る前に、申請、予約、在庫確認など一部機能だけを先に試すなら、アジャイルが向いています。
アジャイル開発のメリット
アジャイルの利点は、作りながら判断を修正できることです。主なメリットは次の4つです。
- リスクを早く見つけられる: 小さな単位で作ってテストするため、不具合や仕様の誤解がスプリントごとに表に出ます
- 利用者のニーズに合わせやすい: レビューで実際の画面を見てもらい、次に作るものを決め直せます
- 価値の高い機能から使い始められる: 全機能の完成を待たずに、優先度の高い機能を先にリリースできます
- チームが進め方を改善し続けられる: 振り返りを毎回行うため、会議や手順の無駄が溜まりにくくなります
こうしたメリットを活かすために基本的な考え方や進め方も押さえたい方は、「アジャイル開発とは?メリット・デメリットから進め方まで初心者向けに解説」をご覧ください。
アジャイル開発のデメリットと対策

一方で、柔軟さが裏目に出ることもあります。代表的なデメリットと対策を整理します。
| デメリット | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 仕様が固まらないまま進む | 要望が増え続け、完成の基準がぶれる | プロダクトゴールと完成の定義を先に決める |
| ドキュメントが不足しやすい | 引き継ぎや保守で仕様が分からなくなる | 権限、データ項目、外部連携は必ず文書に残す |
| 関係者の参加負荷が高い | レビューに出られず判断が止まる | 承認者とレビュー日程を契約前に固定する |
| スキル差が出やすい | 自律的に動けるメンバーが少ないと混乱する | スクラムマスター役を置き、最初は短いスプリントで慣らす |
| 総額が見えにくい | 予算の上限を超えるおそれがある | 予算上限とスプリント数の目安を決め、途中で優先度を削る |
仕様書だけ渡して任せる発注には向きません。Nocoderiでは、最初に業務フロー、権限、データ項目を整理して文書に残し、そのうえでBubbleの画面を見ながらレビューする形で、この負荷を抑えています。
主要な手法:スクラムとカンバン
アジャイルには複数の実践手法があり、代表的なのがスクラムとカンバンです。
| 比較軸 | スクラム | カンバン |
|---|---|---|
| 仕事の区切り | 1か月以内の固定期間(スプリント) | 期間で区切らず流れで管理 |
| 役割 | プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発者 | 決まった役割はない |
| 中心になる道具 | プロダクトバックログ、スプリントバックログ | ワークフローを可視化したボード |
| 重視する指標 | スプリントゴールの達成、完成の定義 | 仕掛かり作業数(WIP)、サイクルタイム |
| 向く場面 | 新機能を計画的に作る開発 | 問い合わせ対応や改修が次々来る保守運用 |
カンバンの公式定義はThe Kanban Guideにまとまっています。新規開発はスクラムで進め、リリース後の改修はカンバンに切り替えるといった使い分けも一般的です。
スクラムの理論と価値基準(経験主義と3本柱)
公式のスクラムガイドであるScrum Guide 2020年版は、スクラムが経験主義とリーン思考に基づくと説明しています。経験主義は、知識は経験から得られ、観察した事実をもとに判断するという考え方です。リーン思考は、無駄を減らして本質に集中する考え方です。
経験主義を回すのが、透明性・検査・適応の3本柱です。
- 透明性: 進め方や作業の状態が、作る人にも確認する人にも見えている状態です。透明性があって初めて検査ができます
- 検査: プロダクトや進み具合を頻繁に確かめ、想定とのずれや問題を見つけます
- 適応: 見つかったずれに合わせて、計画や進め方をすぐに調整します
スプリント、スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブの各イベントは、作成物を検査して適応するための正式な機会として置かれています。会議そのものが目的ではなく、検査と適応を決まった間隔で起こすための仕組みです。
チームの土台になるのが、確約・集中・公開・尊敬・勇気の5つの価値基準です。チームはゴールの達成を確約し、スプリントの作業に集中し、仕事や課題を関係者に公開し、互いを自立した専門家として尊敬し、正しいことを行い難しい問題に取り組む勇気を持つことが求められます。
デイリースクラムやレビューだけを取り入れても、透明性・検査・適応が回らなければ成果は出にくくなります。Scrum Guideも、一部だけを実施することはできても、その結果はスクラムではないとしています。後述の失敗パターンにある「会議名だけまねて中身が変わらない」状態は、まさにこの理論が抜けたときに起こります。
スクラムで進める実務ステップ

Scrum Guide 2020年版に沿うと、スクラムは次の流れを繰り返します。
- プロダクトゴールとバックログを作る: 解決する業務課題と成功の指標を決め、作る候補を優先順位付きで並べます
- スプリントプランニング: 次のスプリントで何を完成させるか(スプリントゴール)を決めます。1か月のスプリントなら最大8時間です
- スプリントの実施: 期間は1か月以内で、実務では1〜2週間に設定するチームが多いです
- デイリースクラム: 開発者が15分で進捗と障害を確認し、その日の計画を調整します
- スプリントレビュー: 動く成果物を利用者や責任者が確認し、次の優先順位を決めます
- スプリントレトロスペクティブ: チームの進め方を振り返り、次のスプリントの改善点を決めます
プロダクトオーナーは要望をすべて受け入れる人ではなく、売上、業務効率、保守負荷を見て並べ替える責任者です。レビューに意思決定できる人が参加しないスクラムは、単なる小分け開発になりやすいです。MVPとスクラムの組み合わせ方はMVP開発×スクラムの実践戦略でも解説しています。
アジャイル導入を成功させるポイントと失敗パターン
アジャイルを成功させるには、手法よりも組織の関わり方が効きます。押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 経営層の理解と支援: 予算や優先順位を途中で見直すことを、経営側が認めている
- スクラムマスターの存在: 障害を取り除き、チームが自分たちで判断できるよう支える人がいる
- 振り返りを続ける文化: レトロスペクティブで決めた改善を、次のスプリントで実際に試す
よくある失敗と対処法は次のとおりです。
| 失敗パターン | 対処法 |
|---|---|
| 仕様変更が頻繁すぎて混乱する | 変更はバックログに積み、スプリント中の割り込みは原則しない |
| ミーティングが多く開発時間が減る | Scrum Guideのタイムボックスを守り、目的のない定例をやめる |
| 成果物が見えにくい | 毎スプリントのレビューで動く画面を見せる |
| レビューで決められない | 承認者を1人決め、代理の判断範囲も決めておく |
| 会議名だけまねて中身が変わらない | 完成の定義を決め、終わったかどうかを毎回判定する |
アジャイルに向いている組織・向いていないケース
向き不向きは業種や会社の規模ではなく、意思決定の速さと契約の形で決まります。政府情報システムでも、デジタル庁が標準ガイドラインの参考文書としてアジャイル開発実践ガイドブック(DS-121、2021年3月策定)を掲載しています。
| 向いている | 向いていない |
|---|---|
| 少人数で、担当者が自分で判断できるチーム | 決裁に何週間もかかり、レビューで結論が出ない組織 |
| リリース後も改善を続けるサービスや業務システム | 一度作ったら変更しない前提のシステム |
| 利用者に画面を見せて意見をもらえる | 利用者や現場責任者がレビューに参加できない |
| 予算枠の中で優先度を入れ替えられる契約 | 完成責任を負う一括請負のまま、進め方だけアジャイルにする |
外部委託時の契約・要件定義の注意点

アジャイルを外部委託するなら、契約の考え方を先に合わせます。固定価格で全機能を約束しながら進め方だけアジャイルにすると、変更の扱いで揉めやすくなります。
IPAの情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)は2020年3月に公開され、2025年4月8日に国際仲裁の解説を追記してダウンロードファイルが差し替えられました。アジャイル開発外部委託モデル契約(解説付き)、契約前チェックリスト、アジャイル開発進め方の指針がまとまっています。
| 契約前に決めること | 決めておく内容 |
|---|---|
| 固定する範囲 | プロダクトゴール、予算上限、契約期間 |
| 変えてよい範囲 | 機能の優先順位、画面の細部 |
| レビュー | 頻度、参加者、承認者 |
| 完成と検収 | 完成の定義、スプリントごとの確認方法 |
| 追加要望 | どの予算枠で扱うか、何を削って入れるか |
要件定義では、全画面の細部よりも、業務目的、利用者、権限、データ、外部連携、変更判断のルールを明確にします。動く画面を使って要件を固める考え方は要件定義を「動くもの」から始める方法で紹介しています。
Nocoderiでアジャイル型の開発を進める場合
Nocoderiでは、初回に業務フロー、権限、画面、データ項目、外部連携を整理し、まずBubbleでMVPを作って利用者に確認してもらいます。予約、問い合わせ、申請、顧客管理などは入力項目と権限を絞ると短いサイクルで検証でき、不要な機能を削って必要な通知や一覧を足していけます。
よくある質問
スクラムガイドは2026年に改訂されましたか?
スクラムガイドは、2026年10月時点でも2020年11月版が現行の公式版です。2025年6月に公開されたScrum Guide Expansion Packは補足資料で、2020年版を置き換えるものではありません。最新の状況はScrum Guides の公式サイトで確認してください。
スクラムとアジャイルの違いは何ですか?
アジャイルは、アジャイルソフトウェア開発宣言に示された価値観や考え方の総称です。スクラムは、その考え方を実践するためのフレームワークの一つで、役割、イベント、作成物が決められています。同じくアジャイルの実践手法であるカンバンとの違いは、「主要な手法:スクラムとカンバン」の比較表で整理しています。
スクラムガイドはどう読めばよいですか?
スクラムガイドは短い文書なので、まずは一度通読して全体像をつかむのがおすすめです。そのうえで、チームの振り返りの場で理論、役割、イベントを一つずつ取り上げ、自分たちの進め方と照らし合わせて確認すると、内容が実務に結びつきやすくなります。
まとめ
アジャイル開発は、2001年のアジャイルソフトウェア開発宣言を起点に広がった考え方です。2026年の実務では、宣言の価値観に加えて、Scrum Guide 2020年版に沿ったプロダクトゴール、バックログ、スプリント、レビュー、レトロスペクティブの運用が欠かせません。継続的な改修が中心ならカンバンも選択肢になります。
ウォーターフォールは要件が安定した案件に向き、アジャイルは変化が多く、利用者の反応を見ながら改善したい案件に向きます。リスクを早く見つけられる、価値の高い機能から使えるといったメリットがある一方、仕様がぶれる、関係者の負荷が高い、総額が見えにくいといったデメリットもあります。向き不向きは会社の規模ではなく、意思決定の速さと契約の形で決まります。
外部委託では、IPAのモデル契約や契約前チェックリストを参考に、固定する範囲と変えてよい範囲、レビュー頻度、承認者、予算上限、検収の方法を契約前に決めておくと、開発会社との認識違いを減らせます。アジャイルだから仕様書が不要になるわけではなく、権限やデータ項目のように後から変えにくい部分ほど文書に残す必要があります。
Nocoderiに相談する場合は、作りたいシステムの目的、利用者、現在の業務フロー、困っている手作業、最初に検証したい機能、利用者数、必要な権限、外部連携、希望納期を整理しておくと、アジャイル型、ウォーターフォール型、ノーコードMVPのどれで始めるべきかを判断しやすくなります。必須機能と後回しにできる機能を分けておくと、最初のスプリントの成功基準も決めやすくなります。
アジャイル型の開発は、途中で仕様が変わることを前提にした新規事業と相性のよい進め方です。当社では、要件が流動的な新規事業として構想された、クリエイターのプロモーション活動を可視化するBtoB向け分析ツールを、要件が固まりきらない段階からノーコードで開発しました。要件が固まっていない段階からご相談いただけます。
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