システム導入・開発の費用対効果【2026年版】ROIの計算式と稟議に使える試算例
はじめに
「システム導入を提案したが、費用対効果が見えないと役員に却下された」「便利になるのは分かるが、金額に換算できない」。システム開発で最初に立ちはだかる壁は、技術ではなく予算の承認であることが多いです。
経営側が知りたいのは「この投資でいくら戻ってくるのか」です。システム導入の費用対効果は、ROIの計算式と総コスト(TCO)を揃えて示すことで説明しやすくなります。逆に、見積金額と「便利になる」という説明だけでは、承認の判断材料になりません。
2026年時点では、AI活用、レガシー刷新、ノーコード開発、SaaS連携と選択肢が増え、同じ業務でも投資額に大きな幅が出ます。開発費が安くても現場が使わなければ効果は出ませんし、初期費用がかかっても作業時間やミスを継続的に減らせるなら十分に元が取れます。だからこそ、手法を選ぶ前に「何を、どれだけ改善すれば成功か」を数字で決めておく必要があります。この順番を守ると、開発会社の提案を比べる基準も揃います。
本記事では、稟議書にそのまま使えるROIの算出方法、見落としがちな隠れコストと隠れた効果、手法による違い、何もしない場合の損失までを順に整理します。発注前に何を測るかを決めておくと、開発会社への依頼内容も明確になり、不要な機能追加を避けやすくなります。試算に使う数字はすべて仮定として示すので、自社の人数や時給に置き換えて使ってください。前提を明記した試算は、金額そのものより説得力を持ちます。
システム導入の費用対効果はROIとTCOで見る

ROIの基本公式
ROI(投資利益率)は、投資額に対してどれだけ利益が出たかを示します。
- ROI(%)=(効果額 − 投資額)÷ 投資額 × 100
- 例: 1,000万円で開発し、3,000万円の効果が出た場合 →(3,000 − 1,000)÷ 1,000 × 100 = 200%
効果額には売上だけでなく、削減できた人件費やミス対応の費用も含めます。投資額は見積金額ではなく、後述するTCOで数えます。
2026年は回収期間とTCOをセットで説明する
経済産業省のレガシーシステムモダン化委員会総括レポート(2025年5月公表)では、ユーザー企業の61%、大企業では74%にレガシーシステムが残っていると報告されています(デジタル庁ニュースの解説)。古いシステムの維持費を払い続けるか刷新するかは、多くの企業で投資判断の対象です。
またIPA「DX動向2025」は、日本企業はコスト削減の成果は出ている一方、売上増や利益増の成果が出ている割合が低いと指摘しています。削減効果だけでなく、売上側の効果も測る設計が求められます。
変化が速い環境では、何年もかけて回収する計画はリスクが高くなります。ROIは導入前の仮説、TCOは運用後の現実コストとして、回収期間とあわせて示すことが重要です。
費用はTCOの4区分で見積もる

費用を計算するとき、多くの担当者は開発会社の見積金額だけを見てしまいます。しかしシステムのコストは氷山のようなもので、見積書に載らない部分が水面下に隠れています。
| 区分 | 主な中身 | 見積書で確認すること |
|---|---|---|
| 初期開発費 | 要件定義、設計、開発、テスト、データ移行 | 移行作業と受け入れテストが含まれているか |
| ランニングコスト | サーバー、ドメイン、SaaS・ツール利用料 | 利用者数が増えたときの料金の変わり方 |
| 保守・運用費 | 不具合修正、OSやブラウザ更新への対応、監視 | 月額に含まれる範囲と、追加改修の単価 |
| 学習・移行コスト | 社員の教育、慣れるまでの生産性低下 | マニュアル作成や説明会の担当 |
保守・運用費の水準は契約内容で大きく変わるため、年額でいくらかかるかを見積もりの段階で必ず出してもらいます。4区分を合計し、3〜5年分で比較したものが本当の投資額です。
効果は3つの軸で金額化する

効果は売上アップだけではありません。次の3つの軸で数値にします。
売上拡大
- 計算式: (成約率の改善分 + 客単価の改善分)× 件数
- 例: ECサイトの改修で購入率が1%から1.5%に上がり、月商が500万円増えた(数値は仮定)
コスト削減
- 計算式: 削減時間 × 時給 × 人数
- 例: 請求書発行を自動化し、経理担当2名の残業が月40時間ずつ減った → 40時間 × 3,000円 × 2名 = 月24万円(数値は仮定)
リスク回避と定性効果
定性効果は「起きたらいくら失うか」で金額に置き換えます。情報漏洩、属人化(担当者の退職で業務が止まる)、離職率の上昇などが対象です。
効果はKPIに落として毎月確認します。たとえば見積承認システムなら、月100件の見積が1件30分短くなれば月50時間の削減になります。
| 観点 | 見るべき指標 | 注意点 |
|---|---|---|
| 初期費 | 要件定義、設計、開発、テスト | 安さだけでなく作り直しリスクを見る |
| 運用費 | 保守、サーバー、ライセンス、教育 | 5年TCOで比較する |
| 効果 | 削減時間、売上、ミス削減、回収率 | 金額化できない効果も記録する |
| リスク | 属人化、障害、セキュリティ、法対応 | 放置コストも比較対象にする |
KPIの設計方法はシステム導入の費用対効果とKPI設計で詳しく解説しています。
稟議書に使えるROI試算例(営業日報アプリ)

営業日報アプリをノーコードで開発する場合の試算です。金額はすべて説明用の仮定です。
前提: 営業担当10名、平均時給3,000円、日報作成に毎日30分かかっている。
- 投資額: 初期開発費50万円 + 年間の保守・ツール費12万円 = 初年度62万円(税抜)
- 削減時間: 30分 × 20日 × 10名 = 月100時間
- 削減金額: 100時間 × 3,000円 = 月30万円(年360万円)
- ROI: (360万 − 62万)÷ 62万 × 100 ≒ 480%
- 回収期間: 62万 ÷ 30万 ≒ 約2.1か月
実際には作成時間がゼロになるわけではありません。削減が半分(1日15分)にとどまった場合も試算しておくと、稟議での反論に備えられます。この場合は月15万円、ROIは約190%、回収は約4.1か月です。
開発手法でROIはどう変わるか

効果が同じなら、投資額を小さくするほどROIは上がります。スクラッチ開発とノーコード開発を仮定の数値で比べると、次のとおりです。
| 項目 | スクラッチ開発 | ノーコード開発 |
|---|---|---|
| 開発費用(税抜・初期費用・仮定) | 1,000万円 | 200万円 |
| 開発期間(仮定) | 6か月〜1年 | 1〜2か月 |
| 3年間の効果額(税抜・仮定) | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 利益(効果 − 開発費用、税抜・仮定) | 1,000万円 | 1,800万円 |
| ROI | 100% | 900% |
| リリース後の回収期間 | 約18か月 | 約3.6か月 |
ただし、この比較は「同じ要件をノーコードで実現できる」ことが前提です。大量データの高速処理や特殊な外部連携が必要な場合は、ノーコードでは作れないか、かえって費用が膨らむことがあります。手法は安さではなく、要件がどちらに合うかで選ぶ必要があります。
MVPとノーコードで費用対効果を高める

最初から全機能を作ると、使われない画面や複雑な承認フローが残りやすくなります。MVP(必要最小限の機能)をBubbleなどで作り、担当者に使ってもらうことで、本開発の前に効果仮説を確かめられます。見積承認や予約管理のような業務は、最小機能で運用して削減時間と手戻り件数を測り、効果が出た機能から広げます。費用の見積もり方はMVP開発 コスト見積もり完全ガイドで整理しています。
発注前に確認すべき費用項目

見積では機能一覧だけでなく、運用条件を揃えて比較します。デジタル庁のデジタル社会推進標準ガイドラインも、情報システムの整備から運用までの手順を共通ルールとして定めています。
- ユーザー数と権限の種類
- 外部連携とデータ移行の範囲
- ログ、バックアップ、障害対応の水準
- 保守窓口、追加改修の単価、SLA
- リリース後の伴走期間
開発体制で迷う場合はシステム開発の開発者募集ガイドも参考になります。
何もしない場合のコスト(COI)も比較する
ROIを計算するときに忘れやすいのが、投資しなかった場合の損失(COI: Cost of Inaction)です。
- 古いシステムや手作業を嫌って若手が辞め、採用費がかさむ
- 手作業のミスで重要な顧客を失う
- 古いシステムの保守費が年々上がる
稟議では「導入した場合のROI」と「このまま続けた場合の損失」を並べると、判断の材料が揃います。
費用対効果を追うときの注意点とノーコード総合研究所の対策

短期の削減額だけを見ると、必要な保守やセキュリティを削ってしまうことがあります。ROIを過大に見積もれば、導入後に期待とのずれが大きくなります。
ノーコード総合研究所では、開発前に業務フロー、効果KPI、MVPの範囲、運用体制を整理し、SaaSで足りる部分はSaaSを使い、独自業務だけをBubbleや受託開発で補う設計にします。詳しくは業務システムの費用対効果(ROI)も確認してください。
まとめ
システム導入の費用対効果を示すには、ROIの計算式に、見積書に載らない費用まで含めたTCOと、売上・コスト削減・リスク回避の3軸で金額化した効果を当てはめます。そのうえで回収期間を出し、削減が想定の半分だった場合の数字も添えると、稟議での説明に耐えられる試算になります。
費用対効果を上げる近道は、効果を変えずに投資額を小さくすることです。ノーコードやMVPで小さく作り、現場で効果を測り、成果が出た機能から広げると、不要な開発を減らせます。ただし要件がノーコードに合わない場合は、無理に選ばずスクラッチや既存SaaSと組み合わせる判断も必要です。
投資しないことにも損失があります。古いシステムの維持費、手作業のミス、人材の流出は、何もしなくても毎月積み上がります。導入した場合と続けた場合の両方を数字で並べることが、判断を前に進める材料になります。
まずは見積承認、日報、請求書発行など、効果を測りやすい業務を一つ選び、削減時間と件数を数えてみてください。導入後は3か月後と6か月後に効果を見直し、次の業務へ広げていきます。入力率が低ければ画面を減らし、効果が高ければ横展開するというように、システムを完成物ではなく改善し続ける仕組みとして扱うと、投資回収の精度が上がります。
[CTA] ノーコード総合研究所では、システム導入の費用対効果の試算、稟議用の投資対効果シミュレーション、MVP設計、Bubble/ノーコード開発まで相談できます。投資判断に迷っている方は、お問い合わせください。